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report-2024

【Mt.FUJIMAKI 2024】ライヴレポート

 天気予報の降水確率は100%に近かったが、穏やかな薄曇りの空に雨の気配はない。2024年9月28日、山中湖交流プラザきらら。今年の「Mt.FUJIMAKI」は原点に返った1日開催で、全8アーティストの豪華競演が一気に楽しめる。11時の開場と共に芝生席を埋めた観客の数は、今年は明らかに多い。富士山は雲の向こうだが、暑くも寒くもない標高980メートルの澄んだ空気が心地よい。起死回生のフェス日和だ。

「Mt.FUJIMAKI 2024にようこそ。毎年来てくださる方、今年初めて来てくださった方、ここに集まってくれたみんなで最高の1日にしましょう」(藤巻)

恒例の山中湖中学校ジャズバンド部・BLUE LAKE BEATのオープニング演奏は、今年はステージ上にプレイヤー席をしつらえてもらい、心なしか得意げに弾んで聴こえる。祝辞を述べる山中湖村村長・高村正一郎氏もお元気そうだ。そして藤巻亮太がアコースティックギターをかき鳴らして「Mt.FUJIMAKI」のテーマ曲「Summer Swing」を歌う。いつもと同じ光景に「またここへ帰ってきた」と思い、毎年違う空の色や音の響きを感じて「また新しいフェスが始まる」と思う。「Mt.FUJIMAKI」も歴史を重ねて7年目、現地開催は5回目だ。

 小柄な体にはちきれんばかりのエナジーをみなぎらせ、エレクトリックギターを抱えてステージに飛び込んできたのは、一番手を務めるシンガーソングライター&ギタリストのReiだ。自己紹介代わりの「My Name is Rei」から「COCOA」へ、バックで支える藤巻BANDと共にファンキーでエネルギッシュな楽曲を立て続けにぶっ放す。ハスキーな声のシャウトも、ブルージーなギターソロも迫力満点。爽やかなカントリー風味の「Don‘t Mind Baby」には藤巻もギターで加わり、リードボーカルも取る。

「初めての出演になりますが、風と自然が気持ちよいですね。みなさんとお会いできてとても嬉しいです」

 さらにReiのリクエストで「3月9日」を、藤巻のアコースティックギターとReiのエレクトリックギターのデュオでしっとりと。最小限のバンドアレンジによる「3月9日」は、いつも以上にまぶしさとみずみずしさが増して新鮮だ。アウトロで弾きまくるReiのギターソロに万感の思いがこもる。藤巻を送り出して残りは3曲、「Lonely Dance Club」「New Days」「What Do You Want?」と、いなせなロカビリーやハードブギの連発でぐいぐい盛り上げ、トップの重責をしっかり果たしてくれた。歌ってよし弾いてよし、キュートな若武者の奮闘に温かい拍手が贈られる。

続いての登場は、家入レオ。包容力あるミドルバラード「ワルツ」をしっとり聴かせ、おおらかでグルーヴィーな「空と青」では手拍子を求めて右へ左へ、動き回って観客を沸かせる。少女めいた可愛らしさと大人びた強さ、透明感と情熱を兼ね備えた美しい歌声は、野外で聴くとなお素晴らしい。藤巻も最初からバンドに加わり、コーラスで花を添える。

「気持ちいいね! 雨予報だったのに、たぶん今日のお客さん、晴れ男と晴れ女がたくさんいるんでしょうね」

 2020年の「ミュージックステーション」での共演と、その直後に街なかでばったり顔を合わせたエピソードを楽しげに語る二人。そのMステで歌われ、藤巻も大好きな曲と語っていた「未完成」は、今日はことさらに気合が入ってエモーショナル。藤巻のアコースティックギターの爪弾きが映える新曲「あの人」も、二人の相性の良さを感じさせる。さらにタオル回しと全員ジャンプの「シューティングスター」で観客の心を一つにし、夏の終わりをしみじみと感じさせるミドルバラード「君がくれた夏」で締めくくる。激しさと愛しさと、曲ごとに細やかな感情のグラデーションを描き出す歌声は、圧巻のひとこと。

 藤巻に名前を呼ばれ、登場した瞬間に待ってましたの大歓声が飛びかう。声優&シンガーソングライターの斉藤壮馬は、藤巻と同じ山梨の生まれだ。自らエレクトリックギターをかき鳴らして歌う「memento」「carpool」を、藤巻BANDのホットな演奏に乗せて伸び伸び歌う姿がすがすがしい。青春を感じるギターロックの疾走感と、甘い歌声とのバランスがなんたって魅力的だ。

「やってきました山梨! 個人名義で山梨でライブをやらせてもらうのは初めて、さらに野外フェスも初めてです。気持ちいい!」

 ここまで全員の第一声が「気持ちいい」なのが、まさに「Mt.FUJIMAKI」の象徴だ。時折薄日の差す天候の中、ハンドマイクに持ち替えて「デート」を歌い、「Summerholic!」では曲を途中で止めて「カンパイ!」のコールで大騒ぎ。スローでメランコリックな「mirrors」では、甘い声の内側に秘めた激しさを見せ、歪みギターのヘヴィなロックチューン「パレット」では、音楽へのまっすぐな情熱を歌にして噴出させる。声優活動で得た多彩な感情表現と、音楽への一途な思いを乗せたパフォーマンス、そして人なつっこいキャラクターの印象を残し、颯爽とステージを降りる山梨の男。

 午後2時半を回る頃、バイクのエンジン音が会場いっぱいに盛大に響き渡れば、氣志團のお出ましだ。オープニングのドラムソロから「俺達には土曜日しかない」へ、微熱DANJIを従えたダンスと、誰でも踊れる振り付けであっという間に観客の心をわしづかみ。さらに「房総魂」「スウィンギン・ニッポン」「萌え萌えROCK'N ROLL」と、キラーチューン連発で波に乗る。台車を持ち出してステージを走る。ドラム以外の全員が楽器を置いてフロントで踊る。「Mt.FUJIMAKI」のステージで「氣志團万博」の宣伝をする。やりたい放題の暴走パフォーマンスに手拍子が鳴りやまない。全身紅白の、綾小路翔の衣装が実にめでたい。

「ついに出れたぜ。だって今日のメンツ、すげぇじゃん? その中で唯一、アイドル枠で来ました。全力で頑張っていきます」

 やることなすことエンタメ精神のカタマリのようなバンドだが、聴かせるところはしっかり聴かせる。本気のアカペラでワンコーラスを歌いあげた「落陽」は、地元を思う気持ちを織り込んだミドルバラードで、「Mt.FUJIMAKI」のステージにぴたりとハマる。そのまま「One Night Carnival」「ゆかいな仲間たち」でぶち上り、氣志團着ぐるみたちも登場して賑やかなフィナーレ。老若男女を笑顔にする、房総エンタメロックバンドここにあり。

 この日の出演者でたった一人、アコースティックギター弾き語りで挑んだのは高橋優だ。幕開けは「福笑い」「微笑みのリズム」の2曲。アコギ1本にも関わらず体感音量はバンドより大きく感じるほど、力強いストロークと熱のこもった歌声が響き渡る。Mt.FUJIMAKIでこの歌唄う、と歌詞を変えて観客を沸かせ、ハーモニカを吹き鳴らし、足踏みのリズムを加えて疾走感を出す。自然発生的に手拍子が起こり、曲を後押しする。路上演奏で育った彼ならではの、観客を巻き込む力は見事のひとこと。

「せっかくだから、みなさんと同じ目線でフェスを満喫したいと思いまして。11時に入場して、フジマキーマを食べました。ちゃんと辛かったです」

 「Mt.FUJIMAKI」タオルに加えて木村カエラのタオルまで買い込み、見せびらかして嬉しそうな高橋優。ゆるいトークで会場を沸かせながら、最新曲「現下の喝采」と「キセキ」は、藤巻BANDのキーボードで旧友のはっちゃんこと平畑徹也を急遽呼び込み、ぶっつけ本番にも関わらず息の合った演奏でじっくり聴かせる。「現実という名の怪物と戦う者たち」「明日はきっといい日になる」は、観客全員の合唱で一体感あふれるクライマックスを作り上げる。ギター1本で勝負する男の底力、しっかりと見せ切った全6曲。

 午後5時、夕闇迫る心地よい風の中でステージに上がったのはflumpoolだ。デビュー曲「花になれ」で幕を開け、「一番の代表曲、もうやります!」と叫んで「君に届け」を歌う、出し惜しみなしの強力セットリスト。「レミオロメンと同じように、ど真ん中でポップでロックな音楽を鳴らすバンド」(藤巻)という紹介の通り、ポップなメロディと勢いあるロックサウンドで一気に飛ばす。ヴォーカル・山村隆太はギターとハンドマイクを持ち替えながら、広い会場の最後方まで歌を届けるためによく動く。2023年にデビュー15周年を迎えた彼らだが、溌剌とした演奏ぶりは新人のようにフレッシュだ。

「音楽が繋いでくれた絆が、この15年にたくさんありました。その一つが、このMt.FUJIMAKIのステージに立てたことだと思っています」

 山村がアコースティックギターを奏でる、出会いの尊さと別れの寂しさを織り込んだバラード「証」をしっとり聴かせ、「君に恋したあの日から」はゆったりとしたリズムに乗せ、アップテンプのラスト曲「星に願いを」でしっかり盛り上げる。「フェス慣れしていない」と言いながらも持ち味を出し切る、全力のパフォーマンスに惜しみない拍手が贈られる。

 いつのまにか夕闇に包まれたステージに鮮やかな灯がともり、藤巻BANDが勢いよく演奏を始め、真っ赤なドレスのシンガーがステージに躍り込む。開演から7時間を経た疲れも吹っ飛ぶ、木村カエラの登場だ。バンドの一員として、エレクトリックギターをばりばり弾く藤巻がかっこいい。一挙手一投足が華やかで、ひらひらと優雅にステージを泳ぐカエラの姿に見とれる。「リルラ リルハ」「BEAT」と、誰にでも乗りやすい豪快で軽快なロックナンバーを連ねて飛ばす。ほんの少し霧雨が下りてきたが、霧に照明が映えてむしろ幻想的に美しい。

「最近は行けてないんだけど、山登りが好きで、八ヶ岳に登ったことがあって。その時の景色がめちゃくちゃきれいで忘れられなくて」

 山梨と長野の県境にそびえる名峰に触れ、そんな景色にぴったりな曲をと「Sun shower」を歌う、地元ファンに向けた心配りが嬉しい。今やJ-POPの、そして結婚式のスタンダード曲になった「Butterfly」を心を込めて歌い、観客全員のコーラスと共に優しい世界を作り上げる姿が尊い。さらに「TODAY IS A NEW DAY」「Magic Music」と明朗快活ロックチューンを連打して、みんなの笑顔が見たい!と歌詞を変えて力強く歌いかける。声だけじゃない、全身から放つ熱量がハンパない、木村カエラの歌は、まるで耳で聴くエナジードリンク。

「Mt.FUJIMAKI 2024、最後まで見てくれてありがとう。最後の最後まで一緒に盛り上がっていきましょう」

 素晴らしい1日の最後を飾るのはもちろんこの人、藤巻亮太と藤巻BANDだ。片山タカズミ(Dr)、御供信弘(B)、近藤寿(G)、曽我淳一(Key)、平畑徹也(Key)、そして藤巻亮太。分厚いバンドサウンドで突っ走る「キャッチ&ボール」からアクセル踏みっぱなし、いつも心地よく爽やかなイメージのある「日日是好日」も、今日はずいぶんラウドでワイルド。♪どうやら雨が…止んだぜ!と、「雨上がり」を歌う藤巻のテンションもいきなりマックス状態。

「素晴らしいアーティストが素晴らしい音楽を届けてくれて、本当に感動します。それをみんなと共有できて、本当に幸せです」

 命の炎が燃えている。「オオカミ青年」の歌詞に合わせた真っ赤な照明が、怖いほどに美しい。「粉雪」に合わせて一斉に客席で灯された、スマートフォンのライトがまぶしい。大規模なフェスティバルだが、アーティストとスタッフと観客との手作り感覚が「Mt.FUJIMAKI」には最初からある。霧や雨や晴れや風や、毎年変わる自然の力が、それを忘れられない思い出の写真へと焼き付ける。

最近テレビで流れていたりして。歌っていただければ最高かなと思いますーー。CM起用でリバイバルした「南風」は、時代も場所も超えて今も色あせない名曲。そして「ゆらせ」は、世代も出身も関係なくタオル回しで盛り上がるエネルギッシュな曲。余力を残さず出し切った、全てのアーティストの熱演を締めくくる最高のフィナーレに贈られる惜しみない拍手。どこを見ても笑顔しかない。

 「Mt.FUJIMAKI」のアンコールにはいつも嬉しい発表があるが、今年もあった。2025年4月に藤巻亮太の全国ツアー開催決定。そしてできたての新曲「新しい季節」の初披露だ。力強く前進するリズムと明るい曲調に乗せ、まっすぐに未来を目指すメッセージが胸を打つ希望の歌。リリースが楽しみだ。そして最後はやはりこの曲。「感謝の気持ちを歌に込めて」と前置きして歌った「3月9日」は、昼間に聴いた爽やかな「3月9日」とは違う、人生の喜びと重みをかみしめるような聴き心地だった。歌は自然のように刻々と表情を変える。だからまた何度も聴きたくなる。

グランドフィナーレは、Rei、高橋優、flumpool、木村カエラをステージに呼び込んで全員で記念撮影。高橋優が木村カエラのタオルを持ちこんで本人に笑われている。和やかな空気が会場いっぱいに広がる。また来年も会いましょうと藤巻亮太は言った。続けることで見えてくるものは確かにある。これまでの5回で、どんな天候でもどんなアーティストのラインナップでも、「Mt.FUJIMAKI」らしさがそこに生まれることがよくわかった。雨でも晴れでも日日是好日。「Mt.FUJIMAKI」がある限り、また来年もここに来よう。

テキスト=Hideo Miyamoto

写真=Ryo Higuchi