report-2025
【Mt.FUJIMAKI 2025】ライヴレポート
猛暑の夏を乗り越えたからこそ、この場所の爽やかさと居心地よさがありがたく身に沁みる。今年の「Mt.FUJIMAKI 2025」は現地開催6回目、富士山こそ雲に隠れて見えないが、そよ吹く風と時折差し込む日差しに恵まれ、天候の心配はなさそうだ。自然の豊かさ、観客のあたたかさ、音楽の素晴らしさに彩られた、これが山梨県の秋を代表する音楽フェス、Mt.FUJIMAKIだ。

Mt.FUJIMAKIには何度も訪れているが、マイクを握るのは初めてというラジオ・パーソナリティーの藤田琢己による紹介を受け、オープニングを飾るのは、今年も山中湖中学校ジャズバンド部・BLUE LAKE BEAT。メンバーは代替わりしているはずだが、若さあふれるひたむきな演奏は先輩から後輩へ、しっかりと受け継がれている。山中湖村の村長・高村正一郎氏の挨拶も例年通り元気ハツラツ、今年は村の三役と共に登場して、県外からも多数訪れた観客の喝采を浴びている。


そしてオーガナイザーの藤巻亮太が開会宣言代わりに1曲、Mt.FUJIMAKIのテーマソング「Summer Swing」をアコースティックギター一本で歌い上げ、「最高の1日にしましょう!」と呼びかける。さぁ、始まる。



「Mt.FUJIMAKI、踊るぞ!」
真昼の12時、夏が戻ってきたかのようなまぶしい光の中へ、颯爽と躍り出たのはLucky Kilimanjaroだ。

生バンドとトラックを組み合わせた強力なダンスミュージックに、日々の小さな幸せを掬いあげる繊細な歌詞を載せ、幅広い年齢層の支持を集めるバンド。「ダンスは自由です」を合言葉に、「エモめの夏」「350ml Galaxy」「HOUSE」「太陽」と、たとえ曲を知らなくても一発で乗れるグルーヴを繋げてぐいぐい飛ばす。

「両親がレミオロメンの大ファンで、今日ここに来ております」と、笑顔で話すボーカル・熊木幸丸。観客席にも親子連れが目立つが、アーティストにもいよいよ親子連れの時代が来たようだ。


バンド最大のヒットチューンにして代表曲「Burning Friday Night」では、二番から藤巻亮太が飛び入り参加。ダンスミュージックに乗せて歌う藤巻という珍しいシーンを見られた、今日の観客はラッキーだ。

さらに「はるか吠える」「踊りの合図」「楽しい美味しいとりすぎてもいい」と、ノンストップで畳みかけ、軽やかに駆け抜けた30分。とりすぎても贅肉になったりしない、音楽の効用を証明するLucky Kilimanjaroの、なんてヘルシーなライブ・パフォーマンス。






ステージ上に藤巻亮太率いるMt.FUJIMAKIバンドのメンバーが揃うと、ここからはバンドにゲスト・アーティストを迎える形のパフォーマンスが続く。藤巻が呼び込んだのは、この日唯一の女性アーティスト、阿部真央だ。

「すごく緊張します」と言いつつ、歌いだせばエンジン全開、1曲目「どうしますか、あなたなら」はアップテンポで豪快に。一転して、夏の終わりの切ない恋歌「貴方の恋人になりたいのです」と、母と子の絆を歌う「母である為に」は、心を込めて切々と。「母である為に」は、この曲が大好きと言う藤巻のリクエストによる選曲で、サビで重なり合う二人のハーモニーがとても素敵。


藤巻の曲「まほろば」のカバーは、逆に阿部真央からのリクエスト曲で、二人のマイクリレーがとても新鮮。続く「ロンリー」で、バンドメンバー全員の近くに行って演奏を盛り上げながら、ステージを動き回って観客にジャンプを呼びかける阿部真央。一つ一つの挙動に気配り上手、盛り上げ上手な人柄が見える。



最後は「ストーカーの唄~3丁目、貴方の家~」をアコースティックギターの弾き語りで、会場いっぱいの手拍子を味方につけて、どこまでも伸びるパワフルな歌声が気持ちいい。ライブ後の、後味のすがすがしさは抜群だ。

「楽しいフェスがあると聞いて、のこのこ来ちゃいましたけれど。仲間に入れてください」
続いてMt.FUJIMAKIバンドに呼び込まれたのは、井ノ原快彦だ。

メンバーとお揃いのシャツに着替えてバンドに溶け込み、「お前がいる」「回れよ地球」「風に預けて」と、 楽曲を立て続けに披露する、爽やかな笑顔と飾らない歌声。「回れよ地球」は、藤巻が20th Centuryのために書き下ろした曲で、今日が初めてだという井ノ原と藤巻のデュエットを見るだけで、得をした気分。井ノ原の柔らかく落ち着いたトーンの歌声が、フォークロック風の曲調によく似合っている。
続けてV6の大ヒット「愛なんだ」を歌い、レゲエのリズムに衣替えした「WAになって踊ろう」を歌えば、もはや誰もが狂喜乱舞。観客にサビのコーラスを任せ、「これぞ一体感。ここまで来たらみんな親戚です!」と笑う井ノ原。最後は藤巻のアコースティックギターと井ノ原のハーモニカをメインに、「愛する人へ」を心を込めて歌い上げ、「ありがとう、親戚のみなさん!」と、手を振りながらステージを降りる井ノ原に贈られる、盛大な拍手の渦。音楽として、エンタメとして、豊富な経験と惜しみないサービス精神に裏付けされた、素晴らしいショータイムだ。
雲の向こうの太陽がやや西に傾きかけた午後3時、ステージに上がったのはスキマスイッチ。大橋卓弥はアコースティックギターを、常田真太郎はグランドピアノを持ち込み、パーカッションを加えた分厚いバンドサウンドで、1曲目「ガラナ」から勢いよくぶっ飛ばす。

「Mt.FUJIMAKIに初参戦、一生懸命やります!」と、新人のような初々しさで、ファンキーな「逆転トリガー」、タオル投げで盛り上がる「Ah Yeah!!」と、アップテンポ連発で波に乗る。「知ってる人は歌って!」と、代表曲「全力少年」で観客全員をコール&レスポンスに巻き込む技も、さすがの一言。安心安定のライブ巧者だ。









「藤巻くんとは、ほぼ同期なんです。呼んでくれてありがとう!」
スキマスイッチとレミオロメンは、同じ2003年にメジャーデビューを果たした間柄。このMt.FUJIMAKIのステージでコラボレーションが実現するのは、両者のファンにとっても胸熱だ。曲はスキマスイッチの代表曲、珠玉のバラード「奏(かなで)」。一番を大橋が歌い、二番を藤巻が歌い、サビで美しいハーモニーを響かせる。藤巻の歌に拍手を送る、大橋のしぐさに照れる藤巻の表情、二人で肩を組んで歌う姿、最後に大橋が客席をバックに3人で自撮りする姿まで、すべての一瞬がいとおしい。



再びMt.FUJIMAKIバンドがスタンバイすると、いよいよフェスも後半だ。藤巻がスガ シカオを呼び込み、1曲目「19才」を歌い始めた瞬間、客席の和やかな空気がグッと引き締まる。立て続けに「Hop Step Dive」へ、スガ シカオ楽曲の持つえぐみを強調するような、ハードエッジなギターサウンドが迫り来る。

スガ自身の気合の入り方も半端じゃない。メンバーの体調不良のため自身のバンドが組めず、夏フェスにほぼ出られなかったとのことで、「Mt.FUJIMAKIバンドのおかげでこのステージに立てました」という言葉に実感がこもる。「この歌詞を聴いて自分を励ましている」と言いながら、「Progress」を歌う姿に強い念がこもる。


スムースでメロウな「オバケエントツ」から、藤巻の熱烈なリクエストによる「黄金の月」へ。「自然の中で歌うような曲じゃない(笑)」と言いつつ、バンドのサポートを得て素晴らしい歌声を聴かせ、ラストは「午後のパレード」の、明るいリズムと会場いっぱいの手振りに合わせてハッピーエンドで締めくくる。スガの熱演はもちろん、濃厚でクセの強いスガ シカオ楽曲を完全にマスターした、Mt.FUJIMAKIバンドの演奏にも大拍手だ。




「最高です。この日を待っていました。楽園に行きましょう」
時刻は午後5時10分、満を持して登場した吉井和哉は、単にこの日のゲスト・アーティストの一人というだけではない。十代の頃から藤巻が多大な影響を受けたと公言し、「Mt.FUJIMAKI 2021」に出演が決まっていたものの、コロナ禍で現地開催を断念したため出演はかなわず。紆余曲折を経てついに迎えた今日、1曲目「楽園」のイントロのギターをかき鳴らす、藤巻の胸の内にはどんな思いがあるだろう。



しかもこの日の選曲は、藤巻のリクエストによるもので、ソロ楽曲「TALI」「CALL ME」と、近年はライブで聴けなかった名曲が次々に歌われる。「CALL ME」の二番は、藤巻が歌った。たぶん歌詞を見なくても、吉井楽曲はすべて歌えるんじゃないか。

知る人ぞ知るレア曲、オアシスの吉井訳カバー「Don’t Look Back in Anger」のあとにTHE YELLOW MONKEY「LOVE LOVE SHOW」を置く、意外性あふれる選曲に、吉井に対する藤巻の愛の深さが伝わる。

そのお返しに吉井が選んだのが、レミオロメンのカバー「アイランド」だ。人の曲を聴いて「こんな曲が作れるなんて悔しいと思った十選の1曲」という吉井の言葉を、藤巻はどんなふうに聞いただろう。一番を吉井が、二番を藤巻が歌う、あまりにも自然な歌のリレーが生みだす、音楽を超えた心の交流。それは間違いなくこの日の、いやMt.FUJIMAKI史上最大のハイライトの一つ。


「僭越ながら、最後にお届けさせていただきます。一緒に楽しんでいただけたらと思います」
あたりはすっかり暗闇に包まれたが、冷え込むほどの寒さじゃない。もうひと騒ぎするには絶好のタイミングで、この日の最後を飾るアクトとしてステージに上がった藤巻亮太が、勢いよくギターをかき鳴らす。

「紙飛行機」「裸のOh Summer」と、アップテンポを連ねて快調に飛ばす。BLUE LAKE BEATから始まり、吉井和哉まで渡ってきた音のバトンをしっかりと受け継いで、フィナーレを盛り上げる気迫がバンドの全員から感じ取れる。


「今日はソロになって本当に良かったと思えた日です」
そんな言葉で、現在の充実した音楽活動を喜びながら、あえて「あまり明るいものではなかった」というソロ初期の楽曲「月食」を歌い、「あの時期が今はいとおしく思えます」と本音を語る。






そして最新アルバム『儚く脆いもの』から「メテオ」を歌い、レミオロメンの「粉雪」を歌う。様々な時期の様々な感情が詰まった楽曲が、「Mt.FUJIMAKI 2025」のステージで並列に並ぶ。ただそれだけで、言葉にならない感慨が湧き上がるのを止められない。

ここでスキマスイッチの二人を呼び込み、大橋が大好きだという「傘クラゲ」をセッションしたのは、これまでのMt.FUJIMAKIでの藤巻のステージにはなかった、嬉しい驚きだ。作詞・藤巻亮太、作曲・前田啓介による、レミオロメンの隠れた名曲。デビュー同期の親密なデュエットが生み出す、これもまた音楽を超えた心の交流。


「ここから一緒に盛り上がっていけたらと思います。良かったらジャンプしたり、手を振ったりしてください」
いよいよフィナーレが近づいた。「南風」「以心伝心」「ゆらせ」と、跳んだり手を振ったりタオルを回したり、音の波に乗っているだけで、楽しい時間はあっという間に過ぎてゆく。


そして、鳴りやまないアンコールの声に応えてもう1曲。曲はもちろん「3月9日」だ。毎年同じことを思い、同じことを書くが、今年の「3月9日」は前回よりも深みを増して聴こえる。今年の「3月9日」が一番心に沁みると、毎年聴くたびにそう思う。客席で振られるスマホのライトが、地上の星座のように儚く美しく揺れている。


フェスを締めくくるのは、出演者全員による記念撮影。一音楽ファンに戻った藤巻が、妙なハイテンションではしゃいでいるように見える



最後に藤田琢己に挨拶をうながされ、「ゲストのみなさんをお迎えすぎることが幸せすぎて、尽きている自分がいました」と笑い、「またお会いできるのを楽しみにしています!」と力強く宣言する藤巻。現地開催6回の中でも、オーガナイザー・藤巻亮太のルーツと本音が強く出たように思える、「Mt.FUJIMAKI 2025」の充実感は特別だった。進化するフェス・Mt.FUJIMAKIは、また一つ新たな高みの風景を見せてくれた。

<text:Hideo Miyamoto photo: Ryo Higuchi>
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