【Mt.FUJIMAKI 2019】ライヴレポート


前日までの雨予報が嘘のように、山中湖畔は快晴だった。藤巻亮太が主催、アーティストのブッキングを手掛け、ふるさと山梨の人々には素晴らしい音楽を、県外からの来客には山梨の食や文化の素晴らしさを発信する、野外音楽フェス「Mt.FUJIMAKI 2019」。今年で第二回を迎えるフェスの成功を祈る出演者と観客の熱意を、山梨の神様はちゃんと見ていたのだろう。日焼けするほどの眩しい陽ざし、雄大な富士山、そして全国各地からやってきた、小さい子ども連れやカップル、女性グループが目立つピースフルなオーディエンス。フリースペースの飲食ブースには山梨特産の食べ物や飲み物が並んでいる。この日のためにオーディションで選ばれたアーティストが歌っている。準備は万端、午後 12 時 45 分、藤巻亮太の開会宣言を合図にいよいよフェスの幕が開く。

「ようこそ山梨へ! みなさんの日ごろの行いが良く、青空が顔を出してくれました。今日一日、最高の音楽を楽しんでください」


オープニングを飾るのは昨年と同じく、地元・山中湖中学校の吹奏楽部「BLUE LAKE BEAT」によるスウィング・ジャズの賑やかな調べ。小気味よい溌溂とした演奏が青空に気持ちよく溶けてゆく。「SING SING SING」など 3 曲を披露してオープニングの大役を果たすと、続いて藤巻亮太が一人でステージに登場。「今日はみんなと最高の夏の思い出を作りたいと思います」と宣言し、「Mt.FUJIMAKI」のテーマソング「Summer Swing」をアコースティック・ギター弾き語りで歌い上げる。海のない山梨で育った藤巻少年が、海に憧れた少年時代を振り返るノスタルジックでドリーミーな 1 曲。照り付ける陽ざしをふと忘れさせる、時を止める風のように爽やかな歌。

「今日は本当に素晴らしいアーティストをたくさんお招きしています。大きな拍手と歓声で盛り上げてほしいと思います」


豪華出演者の先陣を切って登場するのは、サニーデイ・サービスの曽我部恵一。山中湖と富士山をバックにした素晴らしい景色を見渡し「最高ですね」と微笑みながら、「恋におちたら」「東京」の 2 曲をアコースティック・ギター弾き語りでしっとりと。「藤巻くんが選んでくれた曲です」と、藤巻亮太を呼び込んで「サマー・ソルジャー」をデュエットし、さらに「Mt.FUJIMAKI バンド」が加わり「キラキラ!」「青春狂走曲」で思い切りワイルドにロックする。ソロでは柔らかく繊細に、バンドでは力強く豪快に。曽我部は藤巻にとって理想の先輩アーティストなのだろう。ハーモニーをつける声がうれしさではずんで聴こえる。


山中湖村の高村村長による祝辞をはさみ、二番手はこの日の最年少アーティスト、ロック・バンドの teto だ。「若い力で盛り上げていただきましょう」という藤巻の紹介を受けた 4 人は、荒々しいフィードバック・ノイズを皮切りに「高層ビルと人工衛星」「9 月になること」と、切迫感みなぎるパンク・ロックで一気にぶっとばす。傍若無人なようで、内に秘めたまっすぐな優しさを隠せない青々しい演奏。ボーカル小池は、彼の祖父との感動的なエピソードを交えた MC で「音楽には力があるんです」と何度も叫んだ。切なく激しく美しく、最高のライブハウス賛歌「光るまち」は初めて聴く人の胸をしっかりと揺さぶっただろう。濃厚で鮮烈な印象を残すエネルギッシュなパフォーマンス。


「ここから大いに盛り上がってください!」と藤巻が叫び、ORANGE RANGE が姿を現すと会場内の気温がぐっと上がった気がした。「呼んでいただきありがとうございます。ハクがつきます」と笑わせながら、大ヒット「上海ハニー」から「Ryukyu Wind」「以心電信」と絶対的盛り上げチューンを畳みかけ、オーディエンスをカチャーシーのダンスに巻き込みながらぐいぐい突っ走る。「新曲でも盛り上がってるふうにできますか?」と、「Enjoy!」では茶目っ気たっぷりにコール&レスポンスとタオル回しに引きずり込む、さすが百戦錬磨の盛り上げ上手。「音楽と最高の景色と沖縄の風を感じていってください」という言葉の通り、「イケナイ太陽」まで全 5 曲で山中湖に強烈な熱風を吹かせていった 5 人。圧巻のステージだ。


フェスはちょうど折り返し地点、時刻は午後 3 時 20 分。大塚 愛のステージには「Mt.FUJIMAKI バンド」の一員として藤巻亮太もギターとコーラスで参加する。大ヒット・バラード「プラネタリウム」の、原曲にない男性ハーモニーがとても新鮮だ。「キラキラとした今日の太陽のような始まりの歌です」という新曲「Chime」から「ロケットスニーカー」へ、アクティブなパンツ・ルックの大塚 愛は歌詞の“地球っ子”を“藤巻っ子”に替えて歌って大はしゃぎ。藤巻もエレクトリック・ギターを弾きながら楽しそうに笑ってる。対照的に、「富士山の前では無になります。丸裸になった心が一番強いと思います」と言ってキーボード弾き語りで歌った「クムリウタ」の、あまりに悲しく美しい内省。イケイケのアップ・チューンからバラードまで、大塚 愛の底知れぬ魅力を再発見した人は多かったのではないか。至福のひとときだった。


「スペシャルな弾き語りで歌っていただきます」と藤巻が紹介し、第一声が「ご紹介にあずかりました岸田 繁と申します」。飄々とした立ち居振る舞いで会場を和ませたくるりの岸田 繁は、アコースティック・ギターを爪弾きながら軽快なシャッフル・ビートの「キャメル」、柔らかなスロー・バラード「男の子と女の子」と、言葉が心に沁み込む朴訥な歌声でオーディエンスの心をがっちりキャッチ。「山梨に来ることは少ないですが、山も梨も好きです。だから山梨も好きです」と、ほっこりマイペースの MC とあたたかいムードの中、「宿はなし」「Baby I Love You」を歌って一礼。気負いなし、装飾なし、なのになぜこんなに心が揺れるのだろう。名人芸と呼びたい見事な存在感。


ステージ後方に陽が傾き、富士山が夕暮れのシルエットを見せ始める頃、白いスーツでびしっと決めたトータス松本がステージに上がる。ウルフルズ「ガッツだぜ!!」を歌うトータスの後ろで、エレキギターを弾く藤巻がノリノリでステージを動き回る。二人でマイクを分け合う「バカヤロー」では、トータスのソウル・ボイスと藤巻の直線的なハイトーンが新たな調和を響かせる。トータスがアコギで「笑えれば」を力強く歌い上げ、再びバンドをバックに「バンザイ~好きでよかった~」へ。♪いい女を見れば振り返る、のパートを藤巻が歌うのがなんだか楽しい。「あ、虹だ」と誰かが言った。振り向けば、富士山の肩に虹がかかっている。大自然の粋な演出をバックに、フェスは最高のフィナーレに向けて進んでゆく。

「『Mt.FUJIMAKI』は、自分のルーツである山梨に恩返しするために始めました。テーマは二つ。山梨の方には素敵な音楽を、県外の方には食べ物や景色や富士山を含めて山梨の魅力を伝えること。みなさん、山梨の魅力を味わってますか?」


満場一致の拍手と歓声に迎えられ、フェスのトリをつとめるのはもちろん藤巻亮太だ。主催、司会進行、バンドの一員、デュエットの相手、そしてソロ・アクトと、誰よりも多い役割を誰よりも楽しんでいる男。ちょっと季節外れの、だからこそ時空を超えて遥かな切なさが胸に迫る名曲「粉雪」から「もっと遠くへ」、レミオロメンの楽曲をより分厚く豊かに彩るバンドの表現力が素晴らしい。ピアノ桑原あい、ベース御供信弘、ドラムスよっちこと河村吉宏、キーボードのバンマス皆川真人、ギター真壁陽平、バイオリン志村葉月。メンバー紹介する藤巻の声も誇らしげに聞こえる。「南風」では明るいダンス・ビートに乗って、「スタンドバイミー」では直線的なロックのリズムに合わせ、総立ちのオーディエンスが楽しそうに両手を振る。今日の天気を予感していたかのような「雨上がり」では、空の虹はもう消えたが夕闇を染める虹色のライトが眩しく輝く。


「2 年目の一つの挑戦として、母校の子たちと一緒に曲を作りました。高校生たちを応援したいと思って作った曲です」

ラストを飾ったのは、母校・笛吹高校の生徒たちとの交流から誕生した新曲「オウエン歌」だ。彼らしいジェントルなメロディ、フォーク・ロック調のミドル・チューンに、「いこうぜ、僕らの未来」という直情的な歌詞がぴたりとハマる。「高校生と同じ気持ちになれているかはわからないけど」と藤巻は言ったが、年齢は関係ないだろう。誰も知らない未来の喜びは平等にそこにある、これは全ての世代に向けた未来賛歌。

そしてアンコール。来年 2 月 25 日から 29 日まで、東京・紀伊國屋サザンシアターで行われる 5 日間連続ライブでは、日替わりメニューでカバー楽曲を披露することを発表。レミオロメン時代の楽曲をアコースティック・セルフカバーしたアルバム『RYOTA FUJIMAKI Acoustic Recordings 2000-2010』のリリース や、全国 20 ヶ所をまわった弾き語りツアーに力を入れたここ 1 年の活動を経て、2020 年はさらにパワー・ アップした姿を見せることを約束してくれた。


「新たなる門出をみんなで祝いたいなと思います。知っている方は口ずさんでください」

グランド・フィナーレは、他のイベント出演のため早退した曽我部を除くゲスト・アーティストが勢揃いした「3 月 9 日」だった。時々マイクから離れ、観客全員の歌声を聴きながら笑顔満面の藤巻。トータス松本と ORANGE RANGE が肩を組んで歌ってる。teto が手を振って盛り上げ、大塚 愛が素敵なコーラスを重 ねる。岸田 繁がこうした場に出てくるのも珍しいシーンだ。誰もがこの日、この風景、この音楽、この仲間に出会えたことに感謝している。最後に揃って記念写真に収まったアーティスト、ミュージシャン、オーディエンスの胸には、それぞれに何十枚もの心の記念写真が刻まれただろう。「来年も絶対開催したいと思います!」と藤巻は力強く叫んだ。ふるさと山梨への愛と素晴らしい音楽への感謝を込めて。「Mt.FUJIMAKI 2020」はもう動き出している。


セットリスト

藤巻亮太
  • Summer Swing
曽我部恵一(サニーデイ・サービス)
  • 恋におちたら
  • 東京
  • サマー・ソルジャー
  • キラキラ!
  • 青春狂走曲
teto
  • 高層ビルと人工衛星
  • 9 月になること
  • 光るまち
ORANGE RANGE
  • 上海ハニー
  • Ryukyu Wind
  • 以心電信
  • Enjoy!
  • イケナイ太陽
大塚 愛
  • プラネタリウム
  • Chime
  • ロケットスニーカー
  • クムリウタ
岸田 繁(くるり)
  • キャメル
  • 男の子と女の子
  • 宿はなし
  • Baby I Love You
トータス松本(ウルフルズ)
  • ガッツだぜ!!
  • バカヤロー
  • 笑えれば
  • バンザイ〜好きでよかった〜
藤巻亮太
  • 粉雪
  • もっと遠くへ
  • 南風
  • スタンドバイミー
  • 雨上がり
  • オウエン歌
【アンコール】
  • 3月9日