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report-2021

【Mt.FUJIMAKI 2021 ONLINE】ライヴレポート

藤巻亮太が地元・山梨の素晴らしさを伝えるために、自身が主催し、出演者のブッキングに携わる音楽フェスティバル『Mt. FUJIMAKI 2021 ONLNE』が10月2日、東京のスタジオから無観客でオンライン・ライブとして開催された。

18年、19年と2年連続で、山梨の「山中湖交流プラザ きらら」にて野外フェスティバルとして開催され、毎年恒例の音楽フェスとして定着したにもかかわらず、コロナ禍の影響で昨年は中止。

今年こそはとギリギリまで山梨での開催を検討したものの、関係者、観客、出演者の安心・安全を第一に考え、今年はオンライン・ライブとなった。

その苦渋の選択を下すまでの葛藤は、冒頭の山中湖村の高村村長の挨拶からも窺えたが、ホストを務める藤巻とハウス・バンド=Mt. FUJIMAKIバンドがゲストを迎え、ともに演奏するという『Mt. FUJIMAKI』のスタイルは、出演者が順々に演奏する他のフェスティバルよりもオンラインに合っていたようで、ゲストと藤巻のトークや転換中に流れる山中湖村の美しい映像も含め、藤巻曰く「今日しかないスペシャルなコラボレーション」を楽しませるものになったのだった。

以下、藤巻がアコースティック・ギターの弾き語りで、生きることの素晴らしさを謳いあげた「僕らの街」から始まった『Mt. FUJIMAKI 2021 ONLINE』のレポートをお届けしよう。

「最初のゲストをお迎えしたいと思います」と藤巻に迎えられた川嶋あいのステージは、どんな時でも口にすれば元気になれる呪文のような言葉を、跳ねるリズムに乗せたポップ・ソング「へっちゃら」で軽やかにスタート。

Mt. FUJIMAKIバンドの一員として、演奏に参加した藤巻が川嶋の歌にハーモニーを重ねる。

その後、藤巻が楽曲にまつわるエピソードを聞き出しながら、川嶋は3曲を披露。一番の聴きどころは、昨年、川嶋から「一緒に曲を作らせてもらえませんか?」と藤巻に声をかけ、<作曲:藤巻・作詞:川嶋>というコラボレーションで今年3月にリリースされた「どうにか今日まで生きてきた feat.藤巻亮太」だったはず。

「生きてきた道のりを振り返って、苦しい時、躓いた時、どんな感情だったのか思い出しながら書きました。言葉に迷っていたら、藤巻さんが導いてくれて」(川嶋)
「川嶋さんの書かれるべきものがあることがはっきりと分かったので、思い切ってお話させていただけたんです」(藤巻)

讃美歌を思わせる冒頭のハーモニーも含め、2人のデュエットがリアルタイムで聴けるのは、『Mt. FUJIMAKI』だからこそ。

そのままポップ・ロック・ナンバーの「大丈夫だよ」を歌った川嶋は「1曲、弾き語りを」という藤巻のリクエストに応え、最後に「旅立ちの日に・・・」をピアノで披露した。

「この道の先に必ず光が差し込むことを信じて、この歌を歌いたいと思います」(川嶋)
そんな思いとともに届けた《つぼみから花咲かせよう》という言葉がこの日、どれだけ多くの人を勇気づけたことか。温もりに満ちた歌声が胸に染みたのだった。

そんなハートウォーミングなステージから一転、聴く者の胸を抉るような歌をアコースティック・ギター1本で届けたのが竹原ピストルだ。

「2015年にTOKYO GUITAR JAMBOREEという弾き語りのイベントで共演したとき、その歌声と世界観のファンになりました」(藤巻)
「出させてもらってうれしいです。感謝の気持ちを込めて、精一杯やります」(竹原)

そう言って、声を振り絞るように歌ったのが「おーい!おーい!」、讃美歌に自作のポエムを乗せた「Amazing Grace」、中島みゆきのカバー「ファイト!」、そして竹原ピストルとは何者なのかを歌う最新アルバムからのラップ・ナンバー「ギラギラなやつをまだ持ってる」の計4曲。

「カメラの向こうのみなさんがいつまでも心と体に気を付けて、元気で過ごされますようにお祈りの気持ちを込めて歌います」と語った「Amazing Grace」、「心からの尊敬と憧れの気持ちを込めて」と語った「ファイト!」。どちらも曲に込めた思いが濃すぎるところが竹原ならでは。特に「ファイト!」のカバーは曲が持つ、ある意味エグみが原曲以上に強調され、強烈な印象を残す。

「また(『Mt. FUJIMAKI』に)呼んでもらえる歌うたいでいられるように精進していきたいです。それが叶ったら、藤巻さんの故郷の山梨に行けるし、みなさんに直接会えると思います。その日が来たら1曲目に歌いたいと思います」
「ギラギラなやつをまだ持ってる」の前に竹原が言った言葉からは、『Mt. FUJIMAKI』が来年必ず山梨で開催されると信じる強い思いが窺えたのだ。

1曲目にロックンロールの「空にまいあがれ」を選び、Mt. FUJIMAKIバンドとともにスタジオの温度を一気に上げたYO-KINGと桜井秀俊の2人組、真心ブラザーズの熱演に「(お客さんのいない)オンラインだからって関係ないくらい楽しいですね!」と藤巻が快哉を叫ぶ。

すると、「バンドのみなさんがいい!みずみずしい!」とYO-KINGもゴキゲンだ。いきなり最高のグルーブが生まれた。

そこから真心ブラザーズは、藤巻の手堅い司会進行を巧みに脱線させるウィットに富んだトークも楽しませながら、「うみ」「サマーヌード」と夏の終わりにふさわしい2曲を披露。

89年にリリースしたデビュー・シングル「うみ」は、藤巻のリクエストに応えたものだが、9歳の時にこの曲を聴いた藤巻は、その曲調とは裏腹に埋め立て地の殺伐とした景色を綴った歌詞に心を揺さぶられたそう。

そんな思い入れのある曲を真心ブラザーズと共演できたのだから藤巻も感無量だったに違いない。

そして、ラストは再び藤巻のリクエストに応え、昨年リリースしたアルバム『Cheer』から「不良」を。

本来は真心ブラザーズの2人の弾き語りになる予定が、「この曲、好きだと言ってくれたので」と今度は真心ブラザーズからのリクエストで藤巻も歌うことに。

「大事なことをぐさっと歌っている」と藤巻が語ったとおり、たそがれた味わいのフォーク・ソングながら、現在の窮屈な世の中に向けたと思しき<もっと自由でいよう>という言葉が、この曲を作った真心ブラザーズと、リクエストした藤巻の気概を物語っているように思えたのだった。

真心ブラザーズを送り出した藤巻は視聴者から寄せられたコメントを紹介すると、「オンライン・ライブの場合、観ている人がいると信じて歌う勇気が要るんですけど、(寄せられたコメントに)励まされますね」と感謝の気持ちを伝える。

意表を突くようにプリンセスプリンセス時代の「ジュリアン」をピアノによる弾き語りでオープニングに持ってきたのは岸谷香だ。

今回、セットリストについて自らさまざまなアイディアを提案したとのこと。

オンライン開催を決意した藤巻を後押ししたかったのだと思うが、藤巻もそんな岸谷に「お会いするたび、前向きなパワーをいただいています!」と全幅の信頼を寄せている。

そんな前向きなパワーが炸裂したのが岸谷と藤巻がエレクトリック・ギターをかき鳴らしたエネルギッシュなロック・ナンバー「STAY BLUE」。

この新曲は、藤巻のリクエストでセットリストに加えられたそうだ。

そしてプリンセスプリンセス時代の「M」は、ピアノから途中でギターに持ち替えた岸谷と藤巻がギターソロをハモらせる、ダイナミックなロック・バラードにアレンジ。

スタジオの温度をぐっと上げると、そのままドラムで繋げたのが、なんとプリンセスプリンセス時代のヒット・ナンバー「ダイアモンド」だ!

「最後にこの曲を惜しげもなく選んでくれるなんて!」(藤巻)
「(この曲をここで演奏できて)私もハッピーです!」(岸谷)
曲中、ギターストラップが突然切れるというハプニングに見舞われ、急遽ハンドマイクに切り替えた藤巻が、同じくハンドマイクで歌う岸谷にハーモニーを重ね、やがてそれがデュエットに。まさか、そんな共演が観られるとは。

「幸せです!こんな名曲を一緒に演奏させてもらえるなんて!」

藤巻の快哉がスタジオに響き、ライブはいよいよクライマックスへ。

トリを務めるのは、もちろんバンドとともにステージに立った藤巻だ。望郷の思いを緊張感に満ちたロック・サウンドに乗せた「東京」、ノスタルジックなフォーク・ロック・ナンバー「花鳥風月」、アンセミックな「マスターキー」、そしてせつない「粉雪」と立て続けに4曲を披露して、清冽な歌声の魅力を印象づけると、今年、『Mt. FUJIMAKI』をオンラインで開催した理由を改めて視聴者に語りかける。

「コロナがどんな状況になるのか予測できないし、大きな流れには逆らえない。だけど(現地で開催できなくても)音楽のできることで役割を果たしたいと思い、オンラインでの開催を決めました」

そして、この日、ハウス・バンドを務めた信頼できるメンバー、桑原あい(ピアノ)、御供信弘(ベース)、よっちこと河村吉宏(ドラムス)、曽我淳一(キーボード兼バンマス)、真壁陽平(ギター)を紹介してから演奏したのが、一昨年『Mt. FUJIMAKI 2019』で初披露した「オウエン歌」。

「若い力を音楽で応援したい」という思いとともに藤巻の母校・笛吹高校の生徒たちとの交流から生まれた楽曲が今回、「今、がんばっている人たちに届けたい」という思いを込めたことで、この曲を聴く人たちすべての未来を肯定する曲に生まれ変わった。

後半戦も、タフな印象の「My Revolution」、ニュー・ウェーブ調のロックンロール「ゆらせ」、ハート・ウォーミングなラブソング「南風」とポジティブな意思が感じられる曲が続く。

藤巻によると、「バンドからソロまで、今年の思いで今演奏したい曲を選んだ」そうだ。

そして、マンドリンを奏でながら、<サントリー天然水「北アルプス」水源>のテーマ・ソングとして書き下ろし、9月から配信リリースされているカントリー調の新曲「まほろば」を披露。

「便利さ、合理性を突き詰めるのが人間。それに縛られて疲れてしまうのも人間。そんな時、自然の中にいると癒される」と語った藤巻は「生活の中に自然との繋がりを見出せたら、暮らしている場所がまほろば(=素晴らしい場所)なんじゃないかと思う」と続けた。コロナ禍の今だからこそ響くメッセージだ。

4時間超えのオンライン・ライブの最後を飾ったのは、楽曲を作った時の思いを超え、藤巻自身にとっても、彼のファンにとっても大事な曲になっていった「3月9日」だ。

「お客さんのためにも早くジャッジをしなければいけないなかで、高村村長や各関係者と協議を重ねて、オンラインでの開催を決めました。山梨を盛り上げたい、山中湖村の魅力を届けたいという現地の皆さんのいろんな思いもあって、最後の最後まで悩みました。来年こそは(山梨で開催できなかった)2年分の思いを込めて、富士山の麓で、景色や空気、美味しいもの、山梨の魅力を五感全てで楽しんでもらえるようなライブができたらと思っています」(藤巻)

ピアノ・バラード風に始まった楽曲は徐々にバンド・サウンドに変化。

そんなドラマチックなアレンジが加えられた演奏を、ラ・ララと歌い上げる藤巻の声は、とても力強かった。それもそのはずだろう。そこには「最後に感謝と、2022年に続く願いを込めて、お届けします」と語った藤巻の切なる思いが込められていたのだから。

最後にMt. FUJIMAKIバンドのメンバーたちとともにカーテンコールに応えた藤巻の言葉がスタジオに響きわたった。


「また来年お会いしましょう!」

写真=Ryo Higuchi
取材・文=山口智男